『商店街再生の罠』久繁哲之介著(2013) ちくま新書 は、久々に「目から鱗」が満載の本でした。
たとえば、宇都宮餃子の「明」と高岡コロッケの「暗」。
高岡市役所職員の「統計などデータを見る視点、組織化の手法と手順、取り組み内容」は宇都宮市職員のそれを忠実に模倣。
でも、高岡市の「コロッケによる街おこし」は成功どころか、住民にとっては「恥ずかしい思いをしている」という声があること。
これは市役所・商工会議所・(冨山新聞社)で決定権や影響力があり、地域の顔役でもある中高年男性たちが、いかに机上で立案した企画に乗っかって失敗しているか---の証左でもあります。
思わず、快哉を叫んでしまいました。
これだけではありません。
「目から鱗」は地方都市の商店街に広がる「シャッター街」の考察についても、です。
少し長くなりますが、引用します。
-----------------引用終了(強調BLOG主)
シャッター商店街が深刻な問題として指摘されて久しいが、その理由は自治体も専門家も「後継者がいない」の一言で片づけています。
その理由は表面的には間違っていませんが「シャッター商店街の本質は節税」にあることを留意すべきです。
節税は固定資産税と相続税の双方で可能ですが、ここでは本質を具体的に説明できる相続税の話をします。
事業用宅地(店舗兼住宅)を事業承継する場合の相続税は、事業用宅地400㎡までが評価額を20%に滅額して優遇されます。
たとえば、評価額3億円の土地400㎡を相続人1人が相続する場合、他の相続案件や借入金がないと仮定して、事業用宅地とそれ以外の相続税額を比較してみましょう。
事業用宅地の場合は、3億円を20%に減額した6000万円は基礎控除内となり相続税が免除されます。
一方、青空駐車場など更地や賃貸オフィス等の優遇措置がない土地の場合は、7900万円の相続税が課せられます。
両者にこれだけ大きな差があると、商店主が「子供が跡を継いでくれない(後継者がいない)」ことを理由に、商いを放棄する時、投資を行って不動産オーナーになるか、節税目的でシャッター商店主になるかでどちらが得かを天秤にかけます。
「攻めの投資」か「守りの節税」を選択する際に、最も重視される事項は「自分の余命年数と、不動産価値の上昇」です。
投資を回収するには、一定の時間と価値上昇が必要だからです。
商店主が高齢者の場合や、地方都市など高い賃料を期待できない立地の場合、賃貸用店舗等への建て替え投資の意欲は湧かず、必然的にシャッター商店が選ぱれます。
高齢化と地方経済停滞が進むなか、シャッター商店街が増え続ける本当の理由は「商店街が節税策に使われる金融商品」という特性にあるのです。
自治体が、こうした認識をもたずに、シャッター商店街のシャッターを開けるために、再開発事業など多額の公共事業を実施し続けている現状には、首をひねりたくなります。
群馬県太田市の南口一番街は、その典型です。
-----------------引用終了
最後に出てくる太田市の南口一番街という商店街は、いまや「北関東の歌舞伎町」とも称される風俗街になっています。
どうしてだろうと不思議に思っていましたが、この本を読んで腑に落ちました(引用した部分よりあとに理由が述べられています)。
チャレンジショップとして素人に貸し出すような補助金事業も焼け石に水。
どれくらいシャッターが閉まらないようになったのかを比率でみたところで、それは表面しか見ていない税金の無駄事業です。
ここでも「部長・課長」クラスの50代男性への愚痴が記されています(↓)。
-----------------引用開始(強調BLOG主)
若い自治体職員から自主研究会に招かれることがあります。
その場で、よく若い自治体職員から次の愚痴を聞きます。
「自治体の中高年男性は、能力と意欲が低すぎて、私たち若手はモチベーション下がりまくってます。」
自治体の中高年男性は、なぜ「能力と意欲が低い」のでしょうか?
若い自治体職員は、次の2つの説を口にします。
① 30年くらい昔は、簡単に公務員になれたから元々、能力と意欲が低い。
② 自治体に30年もいると「自治体固有の風土」に染まり、常識と市民感覚を失う。
私は後者の説を支持します。
ただし、モチベーションが下がる理由を自治体の中高年男性など他者に責任転嫁する思考には必ず、次のように釘を刺しています。
モチベーションを上げる力は「本人の意識、考え方」次第です。
どんな事・仕事も、考え方次第で「成長への糧、楽しさ」を見出すことができます。
自治体は、首長など上司が「部下が自発的にモチベーションを上げる」サポートをする義務はあります。
本人に自らモチベーションを上げる意識がない場合、モチベーションは絶対に上がりません。
自治体職員のモチベーション向上には、首長など上司が「褒める、任せる」配慮が確かに必要です。
しかし、モチベーションは基本的に他人から与えてもらうものではなく「自ら考えて創出」するものです。
自治体職員のモチベーションは、自分の成長を意識する事も大切ですが「市民や郷土のため、市民と地域が豊かになること」を考えれぱ、自然に創出できるはずです。
そのために、自治体職員は「市民の活動をもっと、皮膚感覚で体感」する機会をもつべきです。
-----------------引用終了
「市民の活動を、皮膚感覚で体感」しないで、統計などのデータによる「机上で立案・企画」をするもんだから、高岡コロッケのような失敗事例が日本各地にゴロゴロしているのでしょう。
本のカバーには、
「・・私たちは、なぜ誰に「大型店に客を奪われた」幻想を刷りこまれたのでしょうか? 商店街が衰退する本質は「公務員など商店街支援者と商店主の多くに、意欲と能力が欠けている」ことにあります。
自分たちの能力と意欲の低さを隠蔽するため、大型店を悪い強者に仕立てあげて……幻想を生み出したのです。」
という指摘を日本各地の豊富な事例をもとに、次から次へと紹介。
で、
とことんダメ事例を述べたあとに、第6・7・8章で「再生戦略」を、これも具体的事例を挙げて提示しています。
それらのキーワードは、(帯にも書いてある)
「再生策は、利用者がつくる!」
(これは「販売者が売りたいモノ」→「顧客がしたいコト」に視点と発想を転換すること。)
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今日の南アルプス(↓11:00撮影)。
11:00の時点では南アルプスが見えていませんでしたが、12:05で赤石岳・荒川岳が見えてきました。山頂には白いものが・・・・・・・(↓)。
今日のストームグラス(↓)。