田中真紀子文部科学相による「<新設不認可>3大学」問題、収束に向かいましたね。なんだったんでしょう、この1週間は。

前回のBLOGで旧制大学数と適正規模に触れた理由は、ちょうど『「月給百円」サラリーマン~戦前日本の「平和」な生活』 岩瀬彰著(2006) 講談社現代新書 を読んでいたからなのです。

この本、もう絶版になっています(アマゾンマーケットプレイスに何冊も出ていますので、じゅうぶん入手可)。

そこの記述で興味深いところがあるので、以下引用します。

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前田一の『サラリマン物語』には、出版前年の昭和2(1927)年の実績と見られる有名企業の初任給一覧が出ている。抜粋してみよう。

三菱合資
帝大工   90円
帝大法   80円
商大      80円
商大専門部と早慶、神戸高商 75円
地方高等商業と中央、法政、明治 65~70円
私大専門部 50~60円
中学程度  35円

三井物産
帝大、商大、神戸高商  80円
各私大         72円
地方高商        64円
甲種商業        40円

住友合資
帝大、商大      80円
神戸高商、商大専門部 70円
早慶、三年制高等商業 60円
甲種商業、中等程度  35円

安田保善社(安田財閥の持株会社)
帝大、商大     70円
私大        60円
私大専門部、官立専門部 50円
中等程度      30円

古河合名
帝大    78円
私大    60~65円
専門学校  68円
中学程度  30~35円

日本郵船
帝大、商大      80円
商大専門部、神戸高商 70~75円
早慶、地方高商    60~65円
その他の私大     50~55円

東京電灯(東京電力の前身)
帝大   75円
私大   55~60円
専門学校 60~70円
中等程度 35~55円

三越呉服店
帝大     65円
商大     60円
早慶     55円
その他の私大 50円
私大専門部  45円
甲種商業   日給1円50銭
中学     日給1円40銭

南満州鉄道
帝大    80円
私大    76~80円
専門学校  70~76円
中等程度  日給

日本銀行
帝大   48円
私大   34~40円
専門学校 29~37円
中等程度 23~29円
(これに手当が付くので、実支給額は各1.9倍。つまり帝大で約90円)

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「帝大」はたぶん東京帝大を指していると思うのですが、既に帝国大学令が出ていたので、昭和2(1927)年に卒業生を送り出している「帝大」は以下の通り。

1. 帝国大学(1877年(明治10年)設立。後の東京帝国大学。現在の東京大学)

2. 京都帝国大学(1897年設立、現在の京都大学)

3. 東北帝国大学(1907年設立、現在の東北大学)

4. 九州帝国大学(1911年設立、現在の九州大学)

5. 北海道帝国大学(1918年設立、現在の北海道大学)

大阪と名古屋は、この時点ではまだ存在しません(大阪帝国大学(1931年設立)、名古屋帝国大学(1939年設立)。

「商大」とは東京商科大を指しています(東京高等商業学校(1887年・現一橋大学)1920年、東京商科大学に昇格。他の「商科大学」はまだ存在しません)。

「地方高等商業」はすでに、あちこちにできていました。

wikiせんせいから拾ってみましょう(昭和2(1927)年に卒業生を送り出しているところまで)。

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神戸高等商業学校(1902年・現神戸大学法・経済・経営学部)

山口高等商業学校(1905年・現山口大学経済学部)

長崎高等商業学校(1905年・現長崎大学経済学部)

小樽高等商業学校(1910年・現小樽商科大学)

名古屋高等商業学校(1920年・現名古屋大学経済学部)

台北高等商業学校(1919年・現台湾大学管理学院)台湾総督府立の高商として開校され、1942年に文部省に移管。

福島高等商業学校(1921年・現福島大学は学群構成にしたのでよくわからなくなっちゃったけど、経済学研究科だと思う。)

大分高等商業学校(1921年・現大分大学経済学部)

彦根高等商業学校(1922年・現滋賀大学経済学部)

和歌山高等商業学校(1922年・現和歌山大学経済学部)

京城高等商業学校(1922年・現ソウル大学校)1946年10月15日に京城大学(戦前の京城帝国大学)と統合、ソウル大学校となった。

横浜高等商業学校(1923年・現横浜国立大学経済・経営学部)

高松高等商業学校(1923年・現香川大学経済学部)

高岡高等商業学校(1924年・現富山大学経済学部)


市立大阪高等商業学校(1901年・現大阪市立大学商・経済学部)

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甲種商業とは、現在の商業高校、中等程度は旧制中学校なので現在の高等学校ですね。

給与の上からも、「官尊民卑」・でも「早慶」だけは私立といえども別扱い。

「戦前」は今以上に「学歴社会」、正確に言うと「学校歴社会」だったことがわかります。

明治以降の「複線型」学校制度を、戦後の学制改革でなんでもかんでも「大学」にしちゃったものだから、田中真紀子文部科学相の指摘もわからんでもないです。

いっそのこと「大学」という形式的な名称にこだわらない「複線型」にしてしまえばどうか、とも思います。

そう、かつての携帯電話の料金プランのような複雑怪奇なものに。

実は、各大学が受験生に課しているセンター試験と個別大学試験(二次試験)科目の数や組み合わせは、まさに「携帯電話の料金プラン」のように複雑怪奇になっています。

ひとことでいえば、

「同じ国公立大学とは思えない!」

入試科目になっています。

「形式的な名称にこだわらない」というスタンスでいけば、文化学院桑沢デザイン研究所アテネ・フランセのようなところに私はシンパシーを感じてしまうのでした。

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今日の南アルプス(↓11:00撮影)。

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