単行本が文庫化されると、その巻末に「解説」がつきます。

これはマンガも同じで、意外な人が解説(とも言えないものの場合もあり)を書いています。

で、

『動物のお医者さん』 文庫版 第2巻には、

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「理想の大学」論、再び

と題して、高橋三郎さんが執筆されていました。

-------------以下引用

(前略)

ストーリーは、高校生西根が、H大学構内で漆原教授に子犬(チョビ)をおしつけられたことをきっかけに、H大学獣医学部に入学し、さまざまな事件を体験していくという単純なものである。

とりたてて大事件が起こるわけでもないし、色恋があるわけでもない。

それでいて多くの読者をひきつけるのはなぜだろう。

獣医学部という珍しい素材のせいもある。

そして、もちろん登場する動物たちが可愛いためでもある。

マンガ調ではなく、リアルな描き方なのだが、かえってそれが成功している。

日本におけるシベリアンハスキー・ブームのもとになったのがチョビであることは、知るひとぞ知るである。

しかし、この作品の魅力は、なんといっても登場人物(動物も含めて)の関係のありかたにあるような気がする。

素っ頓狂な登場人物ばかりに見えるが、実は、自立した個人間の、サバサバした、しかし尊敬と愛情で結ばれた間柄といったらいいだろうか。

この作品のトボけたような暖かさはそのせいだろう。

ここに描かれた人間関係が理想の世界のものであることはいうまでもない。

だが舞台が北海道であるせいか(北のロマン!)、実際に存在しているような気になってしまう。

そして、なまじこちらも大学に身を置いているだけに、この作品を読むと楽しい気分になるとともに、苦い想いで胸が痛くなる。

その意味で、これほど強いリアリティーをもって迫って来る作品は少ないように思う。

この十月に教養部がなくなり、総合人間学部が発足することもあって、友人だちからはさまざまな質問をうけることが多い。

これまでの経緯やこれから先の難問を考えると、手ばなしで喜べる心境ではないので、「『動物のお医者さん』みたいな大学になればいいんだがな」と韜晦するこのごろである

(後略)

-------------引用終了

この文は1992年の「京大広報」433号に掲載されたのだそうな(高橋先生は、当時京大教授)。

このころ、国立大学の「独立法人化」に向けた動きの最中だったんでしょうね。

以前にも書いたことですが、このマンガによって獣医学部の志願倍率が上昇したことは、周知の事実(特に、この舞台となった札幌のH大学獣医学部→北海道大です)。

以後のヒットしたマンガで、大学が舞台となっていて、それもちょっとコアな学部で展開されるストーリー、例えば

『もやしもん』 → 農学部

『ハチミツとクローバー』 → 美大

『のだめカンタービレ』 → 音大

等々の先駆けとなった「獣医」学部の青春群像(+動物群像)。言い過ぎですね。

高橋先生は、さらに

この作品は、正統的な、そして極めて優れた「教養小説」(ビルドゥングスロマン)だと、わたくしは考えています。

とまで、言い切っています。

ここまで書くと、読みたくなってきませんか?

『動物のお医者さん』、赤棚に置いてあります。


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今日の南アルプス(↓11:00撮影)。これから天気は崩れるのだそうな。

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今日のストームグラス(↓)。だからなのか???(↓)

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