昨日から国公立大学二次試験前期日程が始まりました。

で、

昨年から、この日のブログのためにあたためていた((^_^))ネタがあって、それが今から76年前の昭和17年(1942)年に実施された入試問題。

はい、こちら(↓)。

----------引用開始(長いですぜ)

【官立高等学校(旧制)英語」
和文英訳
「今次の戦争に依って与へられた幾多の教訓の一つは、真に貴いのは金銭や物資ではなくて精神であるといふことである」

このころは緒戦の連戦連勝に湧いていた時期なのだが、開戦四ヵ月でもう「今次の戦争の教訓」を引き出しているのは気が早すぎではないか。

おまけに、この設問では結局のところ「精神」主義が答えなのだから、目も当てられない。

そもそもこのご託宣を英訳して、欧米人に見せたところで意味として通用するのか、きわめて疑問だ。

【東京商科大学予科(現在の一橋大学)作文
文題「大東亜共栄圈の若き友に与ふ」(六百字以内)

さすが一橋大学の前身だけあって、いまと同じく「グローバルな視野」をもった人材を求めていたわけですね。

【宮崎高等農林学校(現在の宮崎大学の構成母体)作文
文題「大東亜の指導者としての覚悟」

さすが天孫降臨の聖地・宮崎にある学校は「グローバルな視野」をもった人材を・・(以下、略)。

【山口高等商業学校(現在の山口大学経済学部の構成母体)英作文
「日本人は単なる模倣の民族と屡々言はれて来た。しかしさういふ考へ方は現在大いに改められてゐる。実際我々日本民族ほど創造の才に恵まれたものはないと断定してよいと思ふのである」

「猿マネばかりする日本人」という劣等感が裏返ると、[日本民族ほど創造の才に恵まれたものはない]となってしまうのか。

このようにいきなり断定してしまうのは、一般に「逆ギレ」と呼ばれている開き直りの態度とよく似ている。

【長崎高等商業学校(現在の長崎大学経済学部の前身)英作文
「戦争が五年も続きながら、余り大して困つてもゐない日本の食糧の豊富なのには、外国人は驚き、羨ましがつてゐるさうである」

一九四二年度(昭和十七年度)の入学試験なので、ここで指しているのは日中戦争が全面化して以降の五年間のこと。

すでに早くから砂糖は配給制(一九三九年〔昭和十四年〕)になり、白米も六大都市では四一年四月から、全国では同年十二月から米穀通帳による配給制が施行、ほかに味噌・醤油も配給制になっていた。

にもかかわらず「大して困つてもゐない」と書けるのは、烈々たる愛国心のためか。

四二年以降の食糧事情を知る私だちからすると、戦争をやっているのに食糧豊富な「日本スゴイ」で外国人もビックリ……という一文には、虚しいものを感じる。

【大分高等商業学校(現在の大分大学経済学部の前身)英作文
(一)十二月八日亜米利加合衆国太平洋艦隊所属の戦闘艦五隻は日本海軍の為に撃沈せられ、三隻は大損害を蒙リ、一隻も亦若干の損害を受けた。これで同艦隊の主力は全滅した。
(二)戦争の勝敗は武器や物資の多少によって決せられるものでは無い。国民の精神力如何による事が頗る大である。

(一)はニュース英語の範疇とはいえ、(二)の英作文はちょっと難しい。

近代戦争にも勝利する「国民の精神力」という概念を英語のネイティブに伝えるには、単に語学の知識だけではムリな感じを受ける。

【小樽高等商業学校(現在の小樽商科大学の構成母体)国語及び漢文
次の文中、片仮名の部分を漢字にて、其の下にある括弧内に記入せよ。

「大東亜戦争は東亜に於ける資源を米英多年のサクシュ(  )のキハン(  )より解放して、東亜の自主的共栄的経済建設を確立せんとすることがモクヘウ(  )である。従って今次戦争は東亜経済全体の生産性カウヤウ(  )のもつとも重要なるゼンテイ(  )である。皇軍の緒戦に於けるカクカク(  )たる戦果を思ふにつけても真にイウシウ(  )の美を済さしむるためには、軍事行動とヘイカウ(  )し、神速なる資源確保のハウサク(  )を樹立し、戦争遂行に必需なる我が国経済力を増強し、生産を増進することが産業人に課せられたるセキム(  )である」

漢字の穴埋め問題のほうは比較的簡単だが、高等商業学校の問題だけあって、産業人からみた「大東亜戦争」の意義と責務を簡潔にまとめているのが興味深い。

戦争の大義名分を「米英多年の搾取の羈絆より解放」することだと述べながらも、末尾では「神速なる資源確保の方策を樹立し」とアジアの資源を確保することを訴えているわけで、なんともさもしい「解放」ぶりなのだった。

【府立高等学校高等科(現在の首都大学東京の前身)国史
(一)皇国が東亜の安定勢力たる所以を説明し、明治以後の外交につきてこれを例示せよ。
(二)国民精神作興に関する詔書中の「国家興隆の本は国民精神の剛健に在リ」の意義を、歴史上の事例一二を挙げて説明せよ。
(三)我が国兵制の沿革を略述し、且つ今日の所謂「国家総力戦」の意義について所見を述べよ。

「国史」とは現在の日本史のこと。

大学受験の日本史科目で問題が論述三問しかない、というのは最近もあるのでしょうか。

ともあれいずれの論述問題も時局色が濃厚で……というよりも、時局ネタを国史にかこつけて論述させようという意図のように思える問題だ。

当時の全国の高等学校・大学予科の入試問題には、国史・英語・作文部門でこんな問題が大量に見られた。

最近は、一部の自称愛国者諸君が大学入試問題にもケチをつけるようになっているが、再びこのようなありさまにならないよう祈るばかりである。

『「日本スゴイ」のディストピア』 早川タダノリ著(2016) 青弓社刊 より

----------引用終了

出典元は、「受験と学生」調査部編 『学生受験年鑑昭和十七年版』 (研究社、一九四二年〔昭和十七年〕)からだそうです。

そこから早川タダノリさんが戦時中に見られる『「日本スゴイ」のディストピア』的入試問題をセレクトして、コメントを寄せています。

これらを選んだ過程でフィルターがかかっているにせよ、この本(↑)の趣旨は戦前から戦中にかけて「歴史のゴミ箱に捨て置かれたようなクダラナイ本、知っていても役に立たない本、人類の運命にとってはどうでもいい本厳選して収集し」、そこから透けて見えてくる近年の「ニッポン・スゴイ!」言説とのアナロジーを見事に照射しています。

今からすればトンデモ本の類が大真面目に、そしてそれらが大ベストセラーになったり、教育現場で実践されたりと、いやいやどーして、この頃のニッポンを知ってしまえば、「今の北朝鮮」を笑えませんゼ。

例の棚に置いてあります(↓)。

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今日の南アルプス(↓11:00撮影)。

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今日のストームグラス(↓)。

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